素質
音楽で身を立てるには、やはり持って生まれた素質が必要だと私は思う。いや、環境と努力だという人もいると思うけれど、私は、まず素質があってこそ、良い環境と効果的な努力によってそれが花開くのだと思う。いくら土壌が良く、手入れが行き届いていても、良い種を蒔かなければ良い植物は育たない。しかし、いくら良い種を蒔いても、土壌が悪く、適切な手入れをしないと、良い植物が育たないこともある。でも、中にはとても強い種で、荒地に落ちても、しっかりと根を下ろし立派に育つ場合もある。
以前、生徒のお母さんが、「うちの子は、小さい時から長年ピアノを習わせてきましたから、音大へ行かせたいと思います」と言われて困ったことがある。その子は、幼稚園の頃からピアノを始めたそうだが、私のところに来たのは、中学生の時で、その時まだ、ツェルニー100番(バイエルの後にする練習曲)とソナチネを弾いていた。それも、全然音楽的じゃない弾き方で。そしておまけに、あまり練習をしてこないようだった。
もともと、音感も、リズム感も、音楽的感受性も良くなく、指も不器用で、努力家でもない、そんな子が、ただただ何年もピアノを続けてきたからといって、音楽を専門とする道に進めるものではない。その子は結局、幼児教育系の短大に進み、今は幼稚園の先生をしている。